頭痛外来
- 頭痛について
- 「CGRP関連抗体薬(片頭痛発作の発症抑制薬)」による治療について
- 頭痛とは
- 危険な頭痛
- 代表的な頭痛
- 薬物乱用頭痛とは
- 薬物乱用頭痛の治療法
- 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
- 未破裂椎骨動脈解離(UVAD)
- 頭痛と経口避妊薬
頭痛について

およそ4割近くの方が、頭痛を経験しているといわれています。たかが頭痛という考えで、市販薬で痛みを抑えるのが習慣となり、薬物乱用性頭痛となっている方も少なくありません。たかが頭痛と思わず、お気軽に当院へご相談ください。
「CGRP関連抗体薬(片頭痛発作の発症抑制薬)」による治療について
保険診療
片頭痛発作の発症抑制に用いる新薬が保険適用されたことを受け、当院においても、片頭痛治療薬(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ)による治療を開始いたしました。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)は主に三叉神経節で発現する神経ペプチドで、片頭痛患者では血中CGRP濃度が上昇していると言われています。 抑制薬に含まれる抗CGRP抗体は、このCGRPの活性を阻害することで、片頭痛発作の発症を抑制する効果が期待されています。
治療方法
内服による予防薬ではなく、月1回の注射となります(保険診療)。
CGRP関連抗体薬(片頭痛発作の発症抑制薬)は以下の3種類があり、患者さんの症状に合わせて処方いたします。
スクロールできます
製品名 | エムガルティ | アジョビ | アイモビーク |
---|---|---|---|
用法 | 皮下注射 1か月間隔、1本づつ (初回のみ2本) |
皮下注射 4週間隔、1本づつ 12週間隔、3本づつ |
皮下注射 4週間隔、1本づつ |
費用(1本あたり) | 約12,800円(初回は2本) | 約11,720円 | 約11,690円 |
※費用は保険適用3割負担の場合の料金です。
対象となる方
最適使用推進ガイドライン(厚生労働省)を遵守するため、当院では下記の基準にてCGRP関連抗体薬(片頭痛発作の発症抑制薬)による治療を実施しております。
- 医師に片頭痛と診断されている方(片頭痛とそれ以外の頭痛疾患を鑑別されていることが必要になります)
- 過去3か月の間で、片頭痛が平均して1か月に4日以上発生している方
- 既承認の片頭痛発作の発症抑制薬の効果が不十分な方、または内服の継続が困難な方
ご予約から治療までの流れ
当院にて片頭痛の治療を受けられている方
予約時あるいは診察時に治療希望をお伝えください。
他院で片頭痛の治療を受けられている方
紹介状(診療情報提供書)とお薬手帳をご用意の上、ご予約ください。
初めて頭痛で医療機関を受診される方
まずは当院頭痛外来の診察をご予約ください。
※片頭痛とそれ以外の頭痛疾患が鑑別されていない場合は、MRI検査や血液検査などの検査を実施する場合がございます。
※初回診察当日のCGRP関連抗体薬(片頭痛発作の発症抑制薬)の投与は行っておりません。治療基準に該当するか判断してから、改めて実際にCGRP関連抗体薬(片頭痛発作の発症抑制薬)を投与するお日にちを決定します。
頭痛とは
頭痛には大きく分けて2つのタイプがあります。
一次性頭痛
片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などがあります。頭や体には頭痛の原因となる特別な病気はありません。しかし、何らかの原因で、慢性的に繰り返し頭痛が起こります。頭痛患者さんの約90%がこのタイプにあたります。
二次性頭痛
脳腫瘍や感染症など、別の病気が原因で起こる頭痛です。頭痛患者さんの約10%がこのタイプにあたり、一次性の頭痛患者さんほど多くはありません。
危険な頭痛
- 今までに経験したことのない頭痛
- 急激に起こった頭痛
- 痛みが徐々に始まり、数日から数週にかけてだんだんひどくなってくる頭痛
- 原因不明の高熱、嘔気や嘔吐を伴う頭痛
- 「字が読みにくい、書きにくい、頭がうまく働かない」などの神経症状が現れてくる頭痛
- 原因不明の頭痛
生命に関わる重大な病気が関係していることがあります。こんな頭痛はすぐに受診されるのをおすすめします。 脳腫瘍、くも膜下出血、脳出血、慢性硬膜下血腫、髄膜炎、脳梗塞などが発見される可能性があります。
代表的な頭痛
片頭痛
月に1回から数回と毎日ではないものの時々起こり、その痛みが1日中続くような頭痛は、片頭痛かもしれません。典型的な片頭痛では、頭の片側で心臓が脈打つようにかなりひどく痛みます。階段の昇降や運動によって頭痛が激しくなる、吐き気を伴う、光や音に敏感になるといった症状を伴います。人によっては頭痛が始まる前に「前ぶれ」を感じます。チカチカしたまぶしい光やギザギザ模様の線が、徐々に視界に現れ始めて、おおよそ5-20分間続きます。
緊張型頭痛
緊張型頭痛は最も一般的な頭痛です。多くの人が一度は経験したことがあるような頭痛ですが中でも慢性緊張型頭痛が最も重要です。精神的・身体的ストレスが原因となるため、「ストレス頭痛」とも呼ばれる事があります。数日にわたり、頭がギューッと締め付けらるような頭痛が続いています。しかし、それほどひどい痛みはありません。頭全体が痛みますが、階段を昇ったり、体を動かしても悪化しません。
群発頭痛
群発頭痛は1-2ヶ月の間、ほとんど毎日続きます。頭痛は10-15分の間にどんどんひどくなり、1時間くらい続きます。発作は1日1回かそれ以上の頻度で、しばしば睡眠中に起こります。左右どちらかの目の奥に、キリキリと突き刺すような激しい痛みが特徴的です。その他の症状として、目が充血したり、涙がでたり、鼻がつまったりする事があります。これらは頭痛が起こった側に多く現れます。飲酒が引き金になることも少なくありません。
薬物乱用頭痛とは

薬物乱用頭痛は、頭痛を抑えるために頻繁に鎮痛薬を使用していると、かえって頭痛がひどくなったり、頻度が増えてしまう状態を指します。「薬で頭痛を治そうとしていたのに、逆に薬が原因で頭痛が起きてしまう」という状態です。このような状態に陥ると、薬が手放せなくなり、日常生活に支障をきたしてしまうことがあります。決して珍しいことではなく、特に市販の鎮痛薬を長期間使用している方に起こりやすいと言われています。
薬物乱用頭痛の症状をセルフチェック
以下のようなことに心当たりがありませんか?
- 頭痛が月に15日以上ある
- 鎮痛薬を10日以上/月に使用している
- 薬を飲んでもすぐに効かず、頻繁に追加で飲んでしまう
- 薬を飲まないと頭痛が耐えられない気がする
もし、これらに当てはまることが多ければ、薬物乱用頭痛の可能性があります。
薬物乱用頭痛を放置するとどうなる?
薬物乱用頭痛を放置すると、頭痛の頻度や強さがさらに増し、薬を飲んでもほとんど効果が感じられなくなってしまうことがあります。また、体が薬に依存してしまい、薬をやめたくてもやめられない状態になることもあります。これが続くと、生活の質が大きく低下し、仕事や家事が手につかなくなることも…。早めに適切な対処をすることが、健康を取り戻す第一歩です。
鎮痛剤が効かなくなった要注意?
鎮痛剤が以前ほど効かない、あるいは効くまでに時間がかかると感じたら、それは要注意のサインかもしれません。「もっと強い薬が必要なのかも」と感じるかもしれませんが、その状態で薬を増やすと、さらに薬物乱用頭痛が悪化する可能性があります。
薬物乱用頭痛の検査とは?
薬物乱用頭痛の診断は、主に医師との問診によって行われます。普段の頭痛の頻度や、薬の使用状況、生活習慣などについて詳しく聞かれます。また、場合によっては他の疾患を除外するために、画像検査(MRIやCT)を行うことがあります。検査自体は難しいものではないので、安心して医療機関を受診してください。
薬物乱用頭痛と他の疾患の関係性は?
薬物乱用頭痛は、もともと片頭痛や緊張型頭痛を持っている人に多くみられます。これらの頭痛を改善しようと薬を使い続けた結果、薬物乱用頭痛に陥るケースが多いのです。また、薬物乱用頭痛を抱えたまま放置すると、他の慢性的な痛みや精神的ストレス(うつ症状や不安症)を引き起こすこともあります。だからこそ、元の頭痛と薬物乱用頭痛の両方を適切に治療することが大切です。
まとめ
薬物乱用頭痛は、誰にでも起こりうるものです。無理に一人で抱え込むのではなく、早めに受診することが解決への近道です。「薬に頼らずに生活を送りたい」という希望をもって、一歩ずつ一緒に進んでいきましょう。
薬物乱用頭痛の治療法
薬物乱用頭痛を治療するためには、以下のようなステップを踏むことが一般的です。
乱用している薬の中止
薬物乱用頭痛を治すための第一歩は、現在乱用している鎮痛薬の使用を中止することです。「薬をやめるのは怖い」「頭痛がひどくなるのでは?」と思うかもしれませんが、これが回復への最短ルートです。初めは数日から1週間程度、頭痛が一時的に悪化することがありますが、そこを乗り越えると頭痛の頻度が大幅に減る方が多いです。必要に応じて頭痛緩和のサポート薬を処方するので、安心して治療に取り組めます。
予防薬の使用
薬を中止した後は、頭痛を根本からコントロールするために「予防薬」を使用することが多いです。この予防薬は、頭痛を引き起こす原因に働きかけ、頭痛の頻度や強さを減らしてくれます。たとえば、片頭痛や緊張型頭痛のための薬が処方されることがあります。予防薬を正しく使うことで、以前のように鎮痛薬を頻繁に使わなくてもよくなる方が多いです。
生活習慣の見直し
薬物乱用頭痛は、生活習慣とも密接に関係しています。以下のポイントを意識すると、頭痛の改善が期待できます。
- 規則正しい生活:睡眠時間を一定に保ち、質の良い睡眠を取る
- バランスの良い食事:栄養バランスを意識し、空腹や過食を避ける
- ストレス管理:リラックスできる時間を確保する、適度な運動を取り入れる
- 水分補給:脱水を防ぐためにこまめに水分を取る
これらの生活習慣の改善は、頭痛そのものだけでなく心身の健康全般に良い影響を与えます。
頭痛のトリガーを避ける
頭痛を引き起こす原因(トリガー)を見つけて、それを避けることも大切です。トリガーには以下のようなものがあります。
- 天候の変化(特に低気圧)
- 特定の食べ物や飲み物(アルコール、カフェイン、チョコレートなど)
- ストレスや疲労
これらは人それぞれなので、頭痛日記をつけると、自分のトリガーを把握する助けになります。
専門医のサポートを受ける
薬物乱用頭痛は、自己判断で治療を進めるのが難しい場合があります。治療は個々の状況に合わせてカスタマイズされるため、あなたに合った方法が見つかるはずです。
治療の成功には「我慢よりも一歩踏み出す勇気」が大事
薬物乱用頭痛の治療は、「薬を減らす」ことが目標ですが、これは「頭痛を我慢する」という意味ではありません。医師のサポートや予防薬、生活習慣の見直しを通じて、頭痛がない状態を目指すものです。最初は不安があるかもしれませんが、適切な治療を受けることで「薬がなくても大丈夫」と思える日常を取り戻すことができます。「頭痛をコントロールする自分になれる」と信じて、一緒に治療に踏み出しましょう。
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)

可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は、脳の血管が一時的に収縮し、その後正常に戻る病気です。主な症状は、突然始まる非常に強い頭痛で、これを「雷鳴頭痛」と呼びます。この頭痛は、まるで雷が鳴るように急激に起こり、数分から数時間続くことが多いです。RCVSの患者さんの多くは、このような頭痛を経験します。
症状の特徴
雷鳴頭痛
突然の激しい頭痛が特徴で、数日から数週間の間に何度も繰り返すことがあります。頭痛の間隔はさまざまで、1日に複数回起こることもあります。
神経症状
一部の患者さんでは、手足のしびれや力が入らない、視界がぼやける、けいれんなどの症状が現れることがあります。しかし、これらの症状は一時的で、多くの場合、完全に回復します。
原因と誘因
RCVSの正確な原因はまだ完全には分かっていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。
ホルモンの変化
出産後や経口避妊薬の使用など、ホルモンバランスの変化が影響することがあります。
薬剤の使用
特定の薬(例:抗うつ薬、片頭痛治療薬、一部の風邪薬など)が誘因となることがあります。
ストレスや感情の変化
強いストレスや感情の起伏が引き金となる場合があります。
その他
入浴や運動、性行為など、日常の活動が誘因となることもあります。
雷鳴頭痛(Thunderclap Headache)が起こるタイミング
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の特徴的な症状である雷鳴頭痛は、日常の特定の動作や状況で発症することが多いです。突然の強い血管収縮が原因と考えられており、以下のようなタイミングで発症しやすいと報告されています。
力む動作をしたとき
- 排便時(特に便秘などで強くいきむ場合)
- 重いものを持ち上げるとき
- 強く咳をしたとき
- くしゃみをしたとき
これらの動作では腹圧が急上昇し、それが脳の血管に影響を与えて頭痛を引き起こす可能性があります。
性行為中やオルガスム時
- 性行為の最中やクライマックス時に突然、激しい頭痛が起こることがあります。
- 性交関連頭痛(Coital Headache) として知られ、RCVSの患者さんの中にも経験する人がいます。
このタイプの頭痛は、脳の血管が急激に収縮・拡張することに関連していると考えられています。
運動中や運動後
- 激しい運動(ランニング、筋トレ、HIITなど) の最中や直後に発症することがあります。
- 特に、強い負荷をかける運動(スクワットやデッドリフトなど)で起こりやすい。
血圧の急上昇が脳の血管に影響を与え、血管が収縮することで雷鳴頭痛を引き起こすと考えられています。
温度変化が激しい環境
- 熱いお風呂やサウナに入った直後
- 冷たいシャワーを浴びたとき
- 極端に暑い場所や寒い場所にいたとき
これらの状況では、血管が急激に収縮または拡張するため、RCVSの頭痛が誘発されることがあります。
感情の変化や強いストレス
- 強い怒りやショックを受けたとき
- パニック発作や強い不安を感じたとき
- 恐怖や驚きなど急激な感情の変化があったとき
精神的なストレスや感情の起伏が、自律神経を介して血管の収縮を引き起こす可能性があります。
一部の薬剤やカフェイン摂取後
- 片頭痛治療薬(トリプタン系やエルゴタミン系) を服用した後
- カフェインを大量に摂取したとき
- 交感神経を刺激する薬(エフェドリンや風邪薬など) を服用した後
これらの薬剤は、血管を収縮させる作用を持っているため、RCVSの患者さんでは雷鳴頭痛を引き起こす可能性があります。
雷鳴頭痛の発症パターン
- 突然の激しい頭痛が 数秒~数分以内 にピークに達する。
- 持続時間は 数分~数時間、場合によっては半日以上続くこともある。
- 繰り返し起こる(1日に数回~1週間に数回など)。
- 鎮痛薬が効きにくいことが多い。
注意点
雷鳴頭痛は くも膜下出血 などの生命に関わる病気と症状が似ているため、初めて経験した場合や症状が強い場合は、速やかに病院を受診してください。
診断方法
RCVSの診断には、主に以下の検査が行われます。
画像検査
脳の血管の状態を確認するために、磁気共鳴血管撮影(MRA)やを行います。これらの検査で、血管の一時的な収縮が確認されることがあります。
ただし、発症初期にはこれらの検査で異常が見つからないこともあり、症状の経過や繰り返しの検査が重要です。
治療と経過
RCVSは多くの場合、数週間から数ヶ月で自然に回復します。治療の主な目的は、症状の緩和と合併症の予防です。
頭痛の管理
鎮痛薬を使用して頭痛を和らげます。ただし、一部の鎮痛薬は血管に影響を与える可能性があるため、医師の指示に従うことが重要です。
血圧の管理
高血圧が見られる場合は、降圧薬を使用して血圧をコントロールします。
原因となる薬剤の中止
誘因と考えられる薬剤の使用を中止します。
多くの患者さんは、適切な治療と経過観察により、完全に回復します。しかし、一部の患者さんでは、脳出血や脳梗塞などの合併症が起こることがあります。慎重な診断と経過観察が必要です。
注意点
RCVSは、くも膜下出血や脳動脈瘤など、他の重篤な疾患と症状が似ているため、正確な診断が重要です。突然の激しい頭痛を経験した場合は、速やかに医療機関を受診してください。早期の診断と適切な対応により、合併症のリスクを減らし、早期回復が期待できます。
RCVSは比較的新しい疾患概念であり、医療従事者の間でも認知度が高くない場合があります。そのため、症状や経過について詳しく医師に伝えることが、適切な診断と治療につながります。
参考文献
- 宮腰淑子ら「可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)6例の臨床的検討」『脳卒中』34巻1号、2012年、8-15頁。
- 南野万里子ら「可逆性脳血管攣縮症候群の1例」『川崎医学会誌』44巻1号、2018年、35-42頁。
- 山川詩織ら「出産直前に発症した可逆性脳血管攣縮症候群の1例」『臨床神経学』61巻10号、2021年、681-686頁。
未破裂椎骨動脈解離(UVAD)

未破裂椎骨動脈解離(UVAD)とは、椎骨動脈の内膜に亀裂が生じ、血液が血管壁内に入り込むことで偽腔(false lumen)を形成する疾患です。これにより血管が拡張したり、血流が乱れたり、血栓が形成されやすくなったりする可能性があります。
椎骨動脈解離は、くも膜下出血(SAH)を伴う破裂例と、出血を伴わない未破裂例に大別されます。未破裂の場合でも、血管閉塞や脳梗塞を引き起こすリスクがあるため、適切な診断と管理が求められます。普段と違う後頭部痛が続きMRI検査で診断がつく方が多いです。
疫学的には、日本人を含む東アジア人では椎骨動脈解離の発症頻度が高く、特に40~50代の男性に多いと報告されています(Yamada et al., 2017)。また、全脳動脈解離の約30%を椎骨動脈が占めるとされており、比較的発症しやすい部位といえます(Debette & Leys, 2009)。
発症症状
未破裂椎骨動脈解離の主な症状は、解離の進行による血流障害や局所の炎症によって生じます。代表的な症状は以下の通りです。
後頭部痛・項部痛(Occipital or Neck Pain)
- 突然の激しい後頭部痛が特徴的で、片側性が多い
- 痛みは持続することが多く、「これまで経験したことのない痛み」として表現されることもある
- 約80%の症例で頭痛を主訴とする(Arauz et al., 2015)
脳梗塞症状(Ischemic Symptoms)
- 解離による血流低下や動脈塞栓によって生じる
- めまい、運動障害、感覚障害、構音障害、複視など
- 特に小脳・脳幹の虚血を引き起こしやすい(Oppenheim et al., 2000)
その他の神経症状
- Horner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、発汗低下)
- 一過性黒内障(Amaurosis fugax)
診断方法
未破裂椎骨動脈解離の診断には、主に画像検査が用いられます。
頭部MRI・MRA(Magnetic Resonance Imaging / Angiography)
- T1強調画像(fat suppression)での**”intimal flap”(内膜の裂け目)や”double lumen sign”(二重腔)の確認
- 血栓を伴う場合は、T1強調画像で**高信号域(壁内血腫)として認識される
- 感度・特異度ともに高く、第一選択とされる(Kuker et al., 2002)
治療法
未破裂椎骨動脈解離の治療は、症例ごとに異なるが、基本的に保存療法が第一選択となります。当院から血管内治療を依頼する例は、年間20例ほどいる未破裂椎骨動脈解離例で、1例いるかどうかです。ほとんどの方は保存療法で血管がリモデリングされます。
保存療法(Conservative Management)
- 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)または抗凝固療法(ヘパリン→ワルファリン)を使用とされていますが、当院では原則使用していません。
- 血圧管理が重要(収縮期血圧140mmHg以下を推奨)
- 症状が安定している場合、自然に血管が再開通する例も多い(約60?80%)(Engelter et al., 2006)
血管内治療(Endovascular Treatment)
- ステント留置やコイル塞栓を行う
- 主に進行性狭窄、瘤状拡張、または高リスク症例に適応
- 成功率は90%以上と報告(Jiang et al., 2016)
外科治療(Surgical Treatment)
- 血管バイパス術などが検討されるが、侵襲性が高いため近年は血管内治療が主流
自然経過
未破裂椎骨動脈解離の自然経過は、解離のタイプや血流動態に依存します。
自然再開通(Recanalization)
- 約60~80%の症例で3~6か月以内に自然再開通
- 症状がない場合は慎重な経過観察を推奨
脳梗塞のリスク
- 解離後1か月以内に約15?25%の症例で脳梗塞を発症(Arnold et al., 2006)
- 抗血小板療法により発症リスクを低減可能
破裂リスク
- 未破裂例では破裂リスクは低いが、最大径が10mm以上の場合は注意
- 破裂率は全体の約5%(Yamada et al., 2017)
まとめ
未破裂椎骨動脈解離は比較的良好な予後を示すが、血栓形成や脳梗塞のリスクを伴うため、早期診断と適切な治療が重要です。保存療法が第一選択であり、多くの症例では自然再開通が期待できる一方、進行例や瘤状拡張を伴う場合には血管内治療を考慮する必要があります。
頭痛と経口避妊薬
頭痛の患者さんのなかで、経口避妊薬(ピル)を内服している方がいますが、WHOの使用ガイドラインでは、前兆のある片頭痛の方は、前兆のない片頭痛の方に比較して脳卒中のリスクが高く、前兆のある片頭痛の患者さんは経口避妊薬を使用してはいけないとコメントしています。2-4倍脳卒中のリスクが高いと報告されています。