認知症の予防に効く14のリスク因子とは?「認知症ドミノ」の上流を断つ方法
「認知症は突然やってくる」わけではない
外来で患者さんやご家族からよくこう聞かれます。
「ある日突然、物忘れがひどくなったんです」
けれど実際には、脳の中で認知症につながる変化は、何年も、時には何十年も前から少しずつ始まっています。まるで一列に並んだドミノのように、ひとつの変化が次の変化を引き起こし、それがまた次を引き起こす——そうやって静かに進んでいき、あるとき「物忘れ」という目に見える形で表面化するのです。
これを「認知症ドミノ」とイメージしてみてください。私たちが外来で目にするのは、たいてい列の真ん中や後ろのほうで倒れているドミノです。では、いちばん最初に倒れる「上流のドミノ」、つまり**認知症のリスク因子**は何なのでしょうか。
認知症のリスク因子14項目とは(ランセット委員会2024年報告
2024年に発表された医学雑誌ランセットの委員会報告では、世界中の研究をまとめた結果、**認知症のリスクに関わる「変えられる要因」**として14項目が挙げられました。
– 若い頃の教育機会の少なさ
– 難聴(聴力の低下)
– 高血圧
– 喫煙
– 肥満
– うつ
– 運動不足
– 糖尿病
– 過度な飲酒
– 頭部外傷
– 大気汚染
– 社会的孤立
– 視力の低下
– 高LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)
これらすべてに対策をとった場合、理論上は世界の認知症の**およそ45%**を防いだり遅らせたりできる可能性があるとされています※1。つまり、認知症の半分近くは、「なってから治す病気」ではなく「なる前に手を打てる状態」だということです。
難聴・高血圧が認知症につながる仕組み
大切なのは、これらの要因がバラバラに脳を傷つけているのではなく、互いにつながり合っているという点です。
例えば——
**難聴 → 会話が減る → 外出がおっくうになる → 社会的孤立 → 脳への刺激が減る**
**高血圧・糖尿病 → 血管が傷む → 脳への血流が悪くなる → 小さな脳梗塞が積み重なる**
**運動不足 → 肥満・高血圧・糖尿病が起きやすくなる → さらに血管への負担が増える**
このように、ひとつの要因が次の要因を呼び込み、じわじわと認知機能に影響が及んでいきます。難聴そのものが脳を壊すわけではありませんが、「会話が聞き取りにくいから人と話すのをやめる」という行動の変化が、ドミノの次の一枚を倒してしまうのです。
「年齢のせい」で片づけない
ご高齢の患者さんによく、こうお伝えします。
「もの忘れっぽくなったのは歳のせいだから仕方ない、とあきらめる前に、上流に何か倒せるドミノが残っていないか一緒に探してみましょう」
年齢や遺伝といった変えられない要因ももちろんありますが、上に挙げた14項目の多くは、40代・50代のいわゆる中年期からすでに影響を与え始めることが分かっています。つまり「認知症の予防」は、70代や80代になってから慌てて始めるものではなく、もっと早い段階からの積み重ねなのです。
今日からできる認知症予防の生活習慣
すべてを一度に変える必要はありません。まずは自分にとって取り組みやすいものからで大丈夫です。
– **耳が聞こえにくいと感じたら、我慢せず耳鼻科や補聴器の相談を**
– **血圧・血糖・コレステロールは、症状がなくても定期的にチェックを**
– **一日15〜30分でも、少し息が上がる程度の運動を**
– **人と話す機会、外に出る機会を意識してつくる**
– **禁煙、飲酒量の見直し**
– **気分の落ち込みが続くときは、我慢せず相談を**
どれも「認知症予防」という大げさな響きの割に、実は生活習慣病の予防とほとんど重なっています。血管を守ることは、脳を守ることでもあるのです。
関連記事:もの忘れ・認知症外来もあわせてご覧ください。https://takagi-gekanaika.com/dementia/
よくある質問
**Q. 認知症は本当に予防できますか?**
A. 完全に防げるとは限りませんが、リスク因子への対策によって発症を遅らせたり、発症リスクを下げたりできる可能性があることが、複数の研究で示されています。
**Q. 認知症予防は何歳から始めるべきですか?**
A. リスク因子の多くは40代・50代の中年期から影響を与え始めるとされています。高齢になってからではなく、できるだけ早い段階から生活習慣を見直すことが望ましいとされています。
**Q. 家族に認知症の人がいる場合、リスクは上がりますか?**
A. 遺伝的な要因が関わる場合もありますが、それだけで発症が決まるわけではありません。生活習慣などの「変えられる要因」に取り組むことで、リスクを抑えられる可能性があります。ご心配な場合は、ご相談ください。
*この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療方針に代わるものではありません。ご自身の症状や心配ごとについては、ご相談ください。*
※1 出典:Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. *Lancet* 2024; 404(10452):572–628.
【文責・医学博士 高木輝秀】